残業代は正しく支払われなければなりません。至極当然のことですが、実際の職場では間違った解釈がなされていたり、意図的に支払われていなかったりすることでサービス残業が横行している事例もあります。
サービス残業は違法であり、労使間でトラブルを引き起こさないためにも、企業は残業代について正しく理解しておくことが大切です。この記事では、サービス残業が後を絶たない理由について紹介しています。
加えて、サービス残業への対処法も紹介していますので、トラブル回避に役立つでしょう。サービス残業の撲滅は経営側の責務ですが、労働者においても正しい知識を習得することが重要です。サービス残業について興味のある方は、是非、参考にしてください。
サービス残業とは
サービス残業は「賃金不払残業」とも呼ばれ、「割増賃金を伴わない時間外労働や休日労働のこと」を意味します。単に時間外労働に関する賃金が支払われていないのではなく、「割増賃金」が支払われていないことがポイントです。
多くの労働組合が加盟するナショナルユニオン「日本労働組合総合連合会」が2014年に実施した調査では、約52%の正規労働者が「サービス残業をせざるを得ないことがある」と回答しています。
引用元:労働時間に関する調査(連合)
その後、労働時間に関する法律の改正などがあり、大きく環境は変化しており、2018年頃から総労働時間は減少しています。その反面、日本総研ではサービス残業の懸念が広がっているとの見解を示しており、予断は許さない状況だといえます。
引用元:労働時間削減の裏で懸念されるサービス残業の増加(日本総研)
サービス残業は違法なのか?
サービス残業は労働基準法違反となり、このことが顕在化されれば、罰則が課されます。そもそも労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・1週間に40時間)を超える労働を禁止しています。
ただし、業種や企業によっては季節的な繁忙があり、残業を認めなければ企業経営に大きな影響を及ぼします。そこで、例外的な措置として「三六協定」を締結することで、一定の残業を認めています。
さらに労働基準法では、法定労働時間を超える労働(時間外労働)に対する割増賃金の支払いが義務付けられいます。もちろん、割増賃金が支払われていない場合も法律違反にあたるので注意が必要です。
三六協定を正しく理解しよう
「三六協定」とは労働基準法第36条のことを指します。前項で、例外的な措置として残業が認められることを解説しましたが、それを定めているのが労働基準法第36条です。サービス残業を根絶するには、まず、三六協定を理解しておきましょう。
三六協定は誰と締結するのか
労働基準法第36条では、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」と書面で締結することが定められています。
つまり、労働組合もしくは社員代表とれば「労働時間を延長もしくは休日に労働させることができる」ことになります。会社に対して協力的な労働組合であれば三六交渉はスムーズに行うことが可能です。
しかし、会社に対して否定的な労働組合だと、三六交渉は非常に難航します。三六交渉をスムーズに進めるには、日頃から労使のコミュニケーションを密にし、意思疎通を図っておくことが重要です。
三六協定には上限はある
三六協定を締結すれば、上限なく時間外労働が可能となるわけではありません。三六協定は「1日・1か月・1年間」の時間外労働時間を定めなければならず、月45時間・年360時間の上限が定められています。
つまり、三六協定はこの範囲で締結しなければなりません。なお、上限時間を越えて労働させた場合には、罰則規定が適用され「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられます。
人件費が企業の経営を圧迫している!?
時間外労働にかかる賃金は、割増とすることが労働基準法で定められています。つまり、残業が多い企業は人件費の持ち出しが大きくなり、人件費が企業経営を圧迫しかねません。
このことが、サービス残業を助長させる一因となっていることも否定できないでしょう。ここでは、残業代にかかるコスト(人件費)について考えてみましょう。
残業代に対する経営側の本音
残業や休日、深夜に働いた場合には、割増賃金率を掛け合わせた賃金を支払わなければなりません。つまり、単価の高い労働力を使用することになることから、経営側としてはできるだけ残業代を支払いたくないというのが本音です。
しかしながら、少子高齢化などの影響により、年々労働人口は減少していますから、多くの事業場で要員不足が発生しています。繁忙の時期にもよりますが、1日あたり8時間の労働時間では、業務が回らないのが実態です。
つまり、残業を抑えたくとも抑えられないのが現状であり、企業としては非常に頭の痛い問題であるといえるでしょう。
時間外労働の割増率とは
残業や休日、深夜に働いた場合の割増率の下限値は労働基準法に、次のとおり定められています。この下限値を元にして、三六交渉によって割増率が決定する仕組みです。
- 法定労働時間を超えた時間外労働に対する賃金には、25%以上の割増率を適用。
- 1ヶ月で60時間を超えた時間外労働に対する賃金には、50%以上の割増率を適用。
- 法定休日に勤務した場合には、35%以上の割増率を適用。
- 22~5時までの間に勤務した場合には、25%以上の割増率を適用。
なぜサービス残業が後を絶たないのか
残業代が正しく支払われなければ、当然、労働基準法違反となり経営側には罰則が負わされます。また、大きく報道されることもあり、「ブラック企業」として企業イメージを損なうことは必至です。
しかしながら、未だにサービス残業が後を絶たないのはなぜでしょう?前項で解説したとおり、単価の高い労働力をできる限り使いたくないといった企業の思惑もあるでしょう。ここでは、サービス残業が後を絶たない理由を紹介します。
企業から残業代の削減を求められている
働き方改革の影響もあり、企業には時間外労働の削減が求められています。時間外労働の多い企業は、正しく残業代を支給していても「ブラック企業」とされることも少なくありません。
そのため、事業場の責任者には人件費の削減が求められ、労働者に圧力をかけて無理やり残業代を圧縮している事例もあります。また、成果が出ていないのに残業代を貰えないといった、日本人特有の考え方もサービス残業が根絶できない要因だといえるでしょう。
仕事が溜まっている
単純に仕事が溜まっていることから、やむなくサービス残業をする人も少なくありません。本来であれば、残業を申告すれば良いのですが、会社全体が残業を削減する方針を打ち出しているために言い出せない人もいるのが現状です。
仕事がしたい・生きがいである
仕事がしたい・生きがいである人は、残業すべき仕事がなくとも遅くまで職場にいます。早い時間に職場から離れることに不安があり、帰宅することができない人も少なくありません。
また、家庭にトラブルがあり帰宅したくない人もいます。ただし、本来の残業ではないことを本人も理解しているので、残業を申告せずに職場に残っているのです。
自分に能力がないと思い込んでいる
仕事に結果が出ないのは、自分に能力がないと思い込んでいる人もサービス残業をしがちです。こういった人は責任感が強く「能力がないのに残業代なんか貰えない」と思っています。
悪質な場合だと、上司が部下にサービス残業を強要することもあります。「能力もないのに残業代を貰うのか?」などと詰め寄られ、泣く泣くサービス残業をしている人も少なくありません。
自分の成長のために必要だと考えている
日中は仕事で追われているため、時間外に自分の勉強をしている人もいます。中には研修会と称して、複数名で職場に残る人々も少なくありません。
研修会であれば労働時間にあたらないので、サービス残業には当たらないと主張する人までいます。しかし、厚生労働省は「研修会」は労働時間にあたると見解を示しているので注意が必要です。
サービス残業を根絶させる対処法とは
企業はサービス残業を根絶させる義務を負っていますが、実際にはどういった対処をしていけばよいのでしょうか。ここでは、企業としての対処法を紹介します。自社の状況にマッチした対処法を検討してみましょう。
労働時間を適切に管理する
労働時間を適切に管理することは、サービス残業を根絶させるためのファーストなステップです。事業場の管理者・役職者は社員の従業員の勤務時間を適正に設定し、長時間労働を防ぐために効果的なスケジュール管理を行いましょう。
そのためには、労働時間の記録やタイムトラッキングツールの活用など、正確な労働時間の把握を行う仕組み作りが重要です。また、管理者・役職者に対して労働時間を管理することの重要性を落とし込むことも忘れてはなりません。
残業の削減を促す制度の導入
サービス残業を根絶するには、残業を減らすための制度やポリシーを導入することが不可欠です。例えば、定時での退社を奨励する、フレックスタイム制度の導入、タスクの優先順位付けや効率的なプロジェクト管理の促進などは有効な方法です。
また、導入した制度やポリシーが正しく運用されているかを検証することも大切です。「絵に書いた餅」とならないよう、制度やポリシーが定着するまではPDCAをしっかりと回しましょう。
労働量の見直しと業務の適正な分担を行う
職場の管理者・役職者は個々の労働量や業務内容を見直し、社員の負担を適正かつ公平性をもって分散しましょう。チームメンバー間でのタスクの共有や役割分担、必要に応じて業務の再評価や見直しを行うことで、効率的な労働環境を作ることができます。
この時大切なのが、職場の管理者・役職者だけで決めてしまわないことです。チームメンバーの意見も積極的に取り入れることで、より納得性のある見直し・分担とすることができます。
コミュニケーションと労働条件の改善を行う
上司や社員間のコミュニケーションを強化し、労働条件を改善することもサービス残業の根絶には有効です。社員の意見やフィードバックを積極的に受け入れることで、労働環境や労働時間に関する問題が明確になります。
明確になった問題点は放置せず、チーム内で共有して改善に尽力しましょう。また。労働者の働きやすさを考慮した柔軟な制度や福利厚生の導入も有効な対処法です。
労働文化の変化を受け入れ労働法を遵守する
労働文化は変革しており、以前主流であった「残業する者が優秀」だという考え方は現代では通用しません。いかにワークライフバランスを実現するかが、現代の仕事や人生に対する考え方の主流です。
企業は労働文化の変化を受け入れ、労働者の働き方改革やワークライフバランスの推進を積極的に行うことが重要です。職場全体にサービス残業は行わない・行わせないといった考え方を浸透させることこそ、サービス残業を発生させない最良の方法だといえるでしょう。
サービス残業を強要された時の対処法
上司からサービス残業を強要された場合、どういった対処法があるのでしょうか。「自分に能力がないから」と諦めるのは得策ではありません。「上司に睨まれたくない」と考えるのも同様です。
労働者は自分の労働力を安売りする必要はありません。(もちろん、勤務時間中は成果を上げるために、努力を惜しまないことが大前提ですが…)ここでは、サービス残業を強要された時の対処法を紹介します。自身の置かれている状況などを加味しながら、最適な対処法を検討してみましょう。
コミュニケーションを図る
最初のステップとして、上司や役職者との適切なコミュニケーションを試みましょう。「なぜサービス残業が必要なのか?」「自分の業務負荷が適正ではないのか?」を思い切って聞いてみましょう。
その上で、どういった問題があるのかを明確にし、その解決に協力を求めてみてはどうでしょうか。自身の仕事のやり方・取組みに問題があったのかもしれません。場合によっては、上司が業務の見直しやリソースの追加を検討してくれることもあるでしょう。
労働時間に関するルールを勉強する
労働時間に関するルール・労働基準法などを改めて勉強してみるのも、現状を打開するきっかけとなります。労働者の権利や保護されている労働条件について理解することで、違法なサービス残業を強要されているか否かが明確になります。
違法なサービス残業であるなら、自身を持って会社に相談することが可能です。また、会社が何も対応しないようであれば、法的手段を検討することもできます。
労働組合や労働相談機関に相談する
労働組合に加入している場合は、サービス残業の問題を当該労働組合に相談してみましょう。労働組合は、労働者の権利を守るための支援やアドバイスを提供することが仕事です。
ただし、これから労働組合に加入する場合は注意が必要です。労働組合は単なる「相談相手」ではありません。それぞれに思想や理念があり、加入すればそれに従うことが求められます。
労働組合に加入していない場合であれば、無理に労働組合に加入するのではなく、労働相談機関や労働局など労働問題に特化した公的な機関に相談することもおすすめです。
専門の労働弁護士に相談する
これらの対処法で解決しない場合や、極めて悪質かつ違法な労働状況に直面している場合は、労働弁護士に相談することを検討しましょう。労働弁護士は労働法に詳しく、様々な案件に対応してきた経験値があります。
労働者の権利を守るために、最適な手段を提案してくれます。状況によっては、会社と直接交渉してくれる場合もあるので、非常に心強い存在だといえるでしょう。
労使が協力してサービス残業を根絶させよう!
サービス残業を発生させないためには、労使が正しく労働基準法を理解することが重要です。さらに、経営側は事業場の責任者に対して、人件費の削減を指示するだけでなく、時間外に労働力が必要となる真因を見つけ出し、有効な対策を講ずることが不可欠になります。
また、労働者は自分の労働力を「安売り」しないことが大切です。成果が出ていないからと、へりくだる必要はあろません。日本人の気質といえばそれまでですが、「成果が出ていないからサービス残業も仕方ない」といった考え方は捨てるべきです。
また、労使は「時間外労働は例外的な措置」であることを意識することが大切です。すなわち、サービス残業を根絶するには、労使で正しい知識を醸成し、協力し合うことが必要不可欠だといえるでしょう。
この記事のまとめ
- 残業や休日労働などの時間外労働には割増賃金が支払われなければならない。
- 割増賃金率は労働基準法で定められており、守られなければ法律違反となる。
- 残業代は単価の高い労働力であり、人件費を削減したい企業側にとっては、あまり使いたくないのが本音である。
- サービス残業を横行させないためには、労使が残業代について正しく理解することが不可欠である。