起業

ビジネスプランの多様化・インターネットの普及に加え、会社法の改正によって、起業に対するハードルがずいぶんと低くなりました。アイデア次第で誰もが大きく稼ぐことが可能であり、本業を持ちながら起業を目指す人も多くなっています。

しかし、起業すれば誰でも稼げるわけではありません。個人事業主として一定の所得を獲得するとともに、法人化(法人成り)に踏み切ることが大切です。この記事では起業の形態・会社の設立形態に加え、法人・個人事業主のメリットデメリットを紹介しています。

加えて、法人成りのタイミングや手続きについて解説しているのが特徴です。この記事を読むことで、法人のメリットや法人成りの流れについて理解できます。起業や法人成りについて興味がある方はぜひ読んでみてください。

起業の種類(形態)を知っておこう

起業する際には、会社の形態を理解しておかなくてはなりません。企業形態には「法人」「個人事業主」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、単なる好みやイメージ、言葉の響きから決めるのはリスクが大きいでしょう。

  • 法人:会社組織を立ち上げ、法人登記などの手続きを行うことによって認められる企業形態
  • 個人事業主:法人格をもつ株式会社や合同会社を設立せず、また特定の会社と雇用契約を結ばず、個人として運営する企業形態

起業する際には、企業形態を決めなくてはなりませ。事業内容や本業・兼業の別などの条件を照らし合わせ、メリットの大きい企業形態を選びましょう。

法人の特徴

法人とは会社組織を立ち上げ、法人登記などの手続きを行うことによって認められる企業形態です。事業を継続して運営するには、法人化すべきですが、一定以上の会社規模・収益が確保できていることが条件となります。

また、兼業には向かず、本業として取り組むことが求められるため、個人事業主として一定の成功を収めた後、法人化するのが一般的です。なお、法人と言えば「株式会社」が一般的ですが、最近では「合同会社」も増えています。

法人のメリットとは

個人事業主として起業した後、将来的には法人成りすべきとの声をよく聞きますが、そのメリットとはどういったものでしょうか。法人のメリットを正しく理解しておくことは、モチベーションを維持する上でも大切だといえるでしょう。

社会的な信用度が高まる

法人の一番のメリットは社会的な信用度が高まる点です。事業を安定的に継続させるには「信用」が不可欠であり、その点、法人であれば大きなアドバンテージを得ることができます。

いくら取引先を増やしたくとも、法人としか契約をしない企業も多くあります。事業を拡大するための融資を受ける際も、法人でなければ受けられないことも少なくありません。

人材確保の面では、求職者は信用度の高い法人を選ぶのが一般的です。このようにビジネスにおいて成功するには、社会的な信用が不可欠であり、法人であることは、その信用を手に入れる1つの手段だといえるでしょう。

節税につながる

法人の場合だと法人税の対象となります。法人税の税率は年間所得800万円まで、それ以上で概ね一定です。所得税と比較すると、年間所得800万円を超えた時点で税率が低くなります。また、所得控除の範囲も広がります。

例えば、会社から社長に給与を支払う場合、「給与所得控除」の対象となります。さらに、家族への給与や出張経費なども経費として計上できることから、会社の所得から控除できるのも大きなメリットです。

さらに、配偶者控除や扶養控除も適用されます。つまり、家族への給与を経費として計上することで会社の所得を減らせるだけでなく、社長自身も配偶者控除や扶養控除が適用され、所得税を軽減することが可能です。

事業を継承できる

個人で事業を展開している場合、事業主が何らかの事情で事業を続けられなくなると廃業を検討せざるを得ません。しかし、法人の場合だと、後継に事業を引き継ぎ、継承することができます

もちろん、個人事業主でも事業そのものは継続できますが、屋号や認可などは取得し直す必要があります。そのため、築き上げてきた信用すら再度積み上げていかなければなりません。

法人であれば「ブランド」として企業名が残ることとなり、これまで築き上げてきた信頼や実績も継承されます。企業を安定的に継続するには非常に大きなメリットだといえるでしょう。

法人のデメリットとは

法人のデメリットはコスト面に集中しているといえるでしょう。会社設立の際の費用や事務的なコスト負担は法人のデメリットにはなりますが、企業形態を「判断する際には、メリットと合わせて考えるのが賢明です。ここでは、法人の代表的なデメリットを2点紹介します。

事務的な負担が大きくなる

法人の場合、会計や税務・労務関係などの事務負担が大きくなります。とりわけ、会社の規模が大きくなると、会計や税務に加え、社会保険料の算出や給与計算など専門的な知識が必要となりものも少なくありません。

事務手続きが面倒だからといっておざなりにしておくと、税金の申告漏れなどのトラブルに発生することもあります。しっかりとした知識・スキルを持って迅速に対処することが求められます。

もちろん、これらの事務を専門家に委託することも可能です。しかし、法人税申告書などの作成を税理士に依頼すると、相応のコストが必要であることも忘れてはなりません。

会社設立の際などコストがかかる

法人化するには会社を設立する必要がありますが、株式会社の場合は概ね20~25万円、合同会社であれば概ね10万程度の登記費用がかかります。ちなみに個人事業主の場合は「0円」です。

また、法人であれば社会保険への加入が義務化され、「健康保険料」「厚生年金保険料」が必要になります。業績が安定していれば問題ありませんが、業績が悪化してくると大きな負担になることは言うまでもありません。

個人事業主の特徴

個人事業主は会社組織を立ち上げず、また、会社組織にも属さず、個人として事業を運営する企業形態です。自営業は個人事業主に含まれますが、フリーランスは会社組織を立ち上げている場合もあるので、必ずしも個人事業主ではありません。

個人事業主は開業届(及び「青色申告承認申請書」)を税務署に、都道府県・市町村に「事業開始等申告書」提出すれば手続きが完了します。そのため、副業や兼業として起業する人に多いのも特徴です。

また、将来的な法人化に向けて、一定の成果を積み上げることを目的にひとまず個人事業主として起業する人も少なくありません。

個人事業主のメリットとは

個人事業主の一番のメリットは、比較的簡単に起業できる点です。いきなり法人として起業するにはハードルが高くなるばかりか、万が一失敗した場合には、大きな損失を負うことにもなりかねません。

その点、個人事業主であれば簡単に起業できることから、本業を持ちながら起業することも可能です。ここでは、個人事業主の代表的なメリットについて紹介します。

開業手続きが簡単でコストがかからない

個人事業主と開業する際には、税務署に対しては「開業届」「青色申告承認申請書」を提出します。また、都道府県・市町村に対して「事業開始等申告書」を提出すれば完了します。

もちろん、手続きに費用はかかりません。前項で紹介したとおり、法人の場合であれば会社登記に10万円以上の費用がかかります。手続き面・費用面での負担が少ないことは、個人事業主の大きなメリットだといえるでしょう。

青色申告の対象となり節税が期待できる

個人事業主には所得税の納税義務が発生し、青色申告を行うこととなります。青色申告の場合、必要経費と家事関連費のうち事業部分は控除の対象となり、さらに青色申告控除(最大で65万円)を受けられます。

また、青色申告を行うと赤字となった場合でも、翌年から3年間にわたって繰り越すことができます。サラリーマンとは異なり、必要経費の計上も求められることから大きな節税効果が期待できます。

税務申告などの事務負担が少ない

個人事業主は青白申告が必要となりますが、独学で学べば自分で手続きを行うことが可能です。また、社会保険料の算出や給与計算といった専門的な知識が必要となる事務手続きもありません。

法人であれば、専門的な事務手続きが多く、社会保険労務士などに顧問を依頼するケースも少なくありません。そのため、事務負担に加え費用負担も大きくなりますが、個人事業主であれば最小限に抑えることができます。

個人事業主のデメリット

個人事業主はメリットばかりでなくデメリットもあります。デメリットがあるからと言って、個人事業主として起業することを断念する必要はありません

事前にデメリットを理解しておくことで、しっかりと対処することも可能です。ここでは、個人事業主の代表的なデメリットを紹介します。

社会的な信用度が低い

個人事業主は「会社登記」を必要とせず、誰でも簡単に起業することが可能です。この点は個人事業主のメリットでもありますが、第三者からすれば「実態がよくわからない」として敬遠されることも少なくありません。

中には個人事業主は社会的信用度が低いとして、契約を見送る企業もあります。また、信用度の観点から「融資に関する審査が厳しい」「求人を募集しても応募者が集まらない」といったことも少なくありません。

プライベートにおいても個人事業主だと、偏見の目で見られることもあります。理不尽な対応に心を痛めることもあるかもしれませんが、地道に実績を積み重ねることで、社会的な信用を勝ち取れるでしょう。

福利厚生面に関する制度が十分ではない

個人事業主は福利厚生の面において、サラリーマンと比較すると不利だといえるでしょう。個人事業主は雇用保険や社会保険(厚生年金・健康保険)に加入できません。その代わり個人事業主は、国民年金や国民健康保険に加入しなければなりませんが、その保障内容は異なります。

とりわけ、年金については国民年金と厚生年金では、受け取る金額に大きな差があります。また、個人事業主は一人で仕事をする人も多く、「思うように休暇が取れない」「長時間労働になりがち」といったことも少なくありません。

しかし、最近では個人事業主を対象とした福利厚生サービスもリリースされています。今後もサービスの拡充が想定されており、徐々に改善されていくことでしょう。

業務以外の事務負担が大きい

個人事業主はサラリーマンとは異なり、業務以外の事務も行わなければなりません。法人と比較すれば負担は小さいものの、税務申告などは慣れるまでは面倒な手続きだといえるでしょう。

さらに、案件の獲得に向けた営業活動も自分で行わなければなりません。加えて案件管理・スケジュール管理・会計事務など、自分1人で行う事務が多くなることを心得ておきましょう。

法人と個人事業主の大きな違いとは

ここまで法人と個人事業主のメリット・デメリットを紹介してきましたが、その大きな違いは「事業規模」にあるといえるでしょう。大きく稼ぐには法人を選ぶのが賢明ですが、その分リスクも大きくなります。

また、税金の面でも法人と個人事業主では大きく異なります。法人に課せられる法人税・事業税は所得金額によって大きく税率は変動しません。なお、実効税率は概ね34%で一定です。

これに対して個人事業主に課される所得税の税率は最高で45%となります。ここに住民税10%を加えると、55%の税率を負担しなければなりません。

個人事業主から法人成りに踏み切るタイミング

個人事業主が法人に切り替えることを「法人成り」と呼びます。起業して成功するには、個人事業主として一定の実績を残した後、法人成りするのが正攻法です。ただし、法人成りを行うには、そのタイミングを見極めることが大切です。

所得で見極める

法人税が所得税額を下回る分岐点が概ね800万円です。所得税は累進課税制度であることから税率は上がり続けます。一方、前項でも紹介したとおり、法人税の税率は概ね一定(年間所得800万円以上・800万円まで)です。

したがって、安定的に所得が800万円を越えるようになったら、節税対策の意味でも法人成りを検討しましょう。

ただし、法人成りを検討する際には、所得もさることながら、ビジネスモデルや将来展望・事業計画を明確にしておくことが必要不可欠です。

資金調達の面から見極める

事業を拡大するには、それに見合った大きな資金が必要です。本来であれば、事業にかかる資金はコツコツと貯めるのが健全な方法ですが、ビジネスチャンスを逃がしてしまうことも少なくありません。

そこで頼りになるのが融資ですが、融資を受けるにあたっての審査を通過するには法人成りが必須だといえます。また、会社を運営する際には、各種の補助金・助成金を受ける際にも法人の方が有利です。

つまり、一定以上の収益があり、資金調達の必要性が出てきた場合が法人成りを検討する絶好の機会だといえるでしょう。

消費税対策

個人事業主に課せられる消費税は、2年前の売り上げが1000万円を超えた時点で納税義務が発生します。ただし、個人事業主と法人成り後の企業は別会社と認識されます。

したがって、個人事業主が1000万円を超える売り上げを計上したとしても、法人成りを行えば、2年前の売り上げはカウントされません。言い換えれば、法人成り後、2年間は消費税が実質免除されます。

会社設立時の1回しか使えない方法ですが、大きな節税効果につながることには間違いありません、法人成りのタイミングを検討する際には、消費税対策も1つの要素としておくと良いでしょう。

法人成りの流れ・手順を理解しよう

一定以上の所得が確保できるようになり、 ビジネスモデルや将来展望、事業計画も明確になったなら、法人成りを進めていきましょう。法人成りを効率的に進めるには、次の流れ・手順を踏襲しましょう。

  • 会社の設立
  • 会社設立後の各種手続き
  • 財産(事業用の資産・債務)の引継ぎ
  • 取引先との契約変更

会社の設立

会社を設立するには、設立登記が必要です。設立登記を円滑に進めるには、様々な書類を事前に準備しておくと良いでしょう。設立登記の大まかな流れは以下のとおりです。

  • 会社の基本的事項を定める
  • 定款を作成する・認証を受ける
  • 資本金の払い込む
  •  設立登記する

会社の基本的事項とは…

会社を設立するには、どういった事業を営むのかを明確にしなければなりません。加えて、ビジネスモデルや将来展望を事業計画に落とし込んでおくと良いでしょう。さらに、会社登記を円滑に進めるには、以下の基本的事項を定めておきましょう。

  • 会社名(商号)
  • 事業の目的
  • 本店所在地
  • 資本金
  • 株主
  • 役員
  • 事業年度
  • 会社の印鑑の用意
  • 個人の印鑑の用意
  • 設立費用の準備

定款とは…

定款とは、会社の基本事項を定めたものであり「会社の目的」「商号(会社名)」「本店所在地」などを次の内容を記載しなければなりません(絶対的記載事項)。

  • 会社の目的
  • 商号(会社名)
  • 本店所在地
  • 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額(資本金)
  • 発起人の氏名又は名称及び住所
  • 発行可能持株総数

加えて、相対的記載事項として、株式の譲渡制限に関する定めなど、次の内容を記載します。

  • 株式の譲渡制限に関する定め
  • 取締役会・会計参与・監査役・監査役会・会計監査法人・委員会・代表取締役の設置
  • 取締役等の任期の短縮、伸長
  • 監査役の任期の伸長
  • 公告の方法

資本金の払い込み

作成した定款は、公証役場において公証人の認証を受けなければなりません。その後、資本金を発起人の代表者個人の口座に払い込み、設立登記の準備は完了します。

設立登記

会社の設立登記は法務局で行います。この時、登記申請書に加えて「定款」「印鑑証明書」などを揃えて法務局の窓口に提出することで手続きは完了です。

会社設立後の各種手続き

会社登記を行ったら、各機関に必要な手続きを行います。各種手続きの大まかな流れは以下のとおりです。

  • 税務署・都道府県税事務所への届出
  • 年金事務所への届出
  • 労働基準監督署・ハローワークへの届出

税務署・都道府県税事務所への届出

本店を所轄する税務署には、以下の書類を作成・提出します。この時、登記事項証明書や定款のコピーが必要です。なお、都道府県税事務所へは「法人設立届出書」を提出します。

  • 法人設立届出書
  • 青色申告の承認申請書
  • 給与支払事務所等の開設届出書
  • 源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書

個人事業を廃業して法人成りを行う場合には、以下の書類を所轄の税務署及び都道府県税事務所に提出します。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書
  • 事業開始(廃止)等申告書 ※都道府県税事務所のみ

年金事務所への届出

法人成りを行う場合には社会保険に加入しなければなりません。社会保険には「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」の3種類があり、以下の書類を年金事務所に提出します。

  • 健康保険 厚生年金保険新規適用届
  • 健康保険 厚生年金保険被保険者資格取得届
  • 健康保険被扶養者(異動)届

労働基準監督署・ハローワークへの届出

法人成りを行い、従業員を雇用する際には労働保険への加入が義務付けられます。この時、労働基準監督署には以下の書類を提出します。

  • 労働保険 保険関係成立届
  • 労働保険 概算保険料申告書

併せて、ハローワークには以下の書類を提出します。

  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険 被保険者資格取得届

財産(事業用の資産・債務)の引継ぎ

法人成りに伴い、個人事業に関わる財産(事業用の資産・債務)を引き継ぐことになります。個人と新会社のの間で売買や債務の引受契約を交わし、個人と会社の財産を明確に区別することが重要です。

併せて、銀行の借入名義変更(借り換え)、事務所の賃貸契約書の名義変更を行います。なお、銀行口座やクレジットカードについては、会社名義で新たに開設・作成しておきましょう。

取引先との契約変更など

個人事業主として取引先と契約を締結していた場合、契約変更が必要となります。また、取引先とはさらに強い関係を構築する必要もあることから、法人成りしたことを伝えることも大切です。

あいさつ状を作成したり、訪問したりするなど丁寧な対応を適切なタイミングで行う必要があることを心得ておきましょう。

法人成りのベストタイミングを見極めよう

起業して安定的かつ持続的に稼いでいくには、個人事業主を経て法人成りを行うことが賢明です。ただし、適切に法人成りを行うには、最適なタイミングを見極めることが大切になります。

法人成りにベストなタイミングは、年間所得が800万円を越えたあたりが一般的です。しかし、年間所得の金額だけで法人成りを行うのは得策ではありません。資金調達の必要性や消費税対策の面も考慮して、タイミングを見計らうべきです。

つまり、個人事業主が法人成りを成功させるには、法人のメリット・デメリットを把握した上で、事業の現状に応じてベストタイミングを見極めることが重要だといえるでしょう。